2005年11月1日
*世界の食卓から(第57回):食の散歩道「おととの街」

・「へいらっしゃい」
 
先日初めて博多に行った。今まで、由布院や鹿児島などに行った帰りに通過したことはあったが、ゆっくり見た事はなかった。夜に着いたので、駅の近くで晩御飯にすることにした。特にガイドブックなどは持っていなかったので、適当にその辺の焼き鳥屋のような店に入ってみることにした。「ガラッ」とドアを開けると「へいらっしゃい!」と威勢のいい声がかかった。大阪以外の場所でこの威勢のいい掛け声を聞いたことがなかったので、驚いた。その声で博多は活気のある町なんだとすぐに分かった。
 その店は焼き鳥だけではなく、魚も野菜も網で焼いていた。カウンター席のすぐ前で焼かれる魚や鳥は油を滴らせながら、いい色に仕上がっていた。
 メニューをみて、初めて見る名前があった「おきゅうと」。。。なんだこりゃ?と思い、店員さんに聞くと、ところてんの様な海草だと言う。注文してみた。出てきたのはところてんより少し太いもので、ポン酢をかけて下さいと言われたので、そうしてみた。食べてみると、特においしくもなく、まずくもない、頼りないところてんだった。福岡ではよく、朝食に食べられているそうだ。2回食べたいかと言われると、まあ、どっちでもいいような味だった。
 おきゅうとを食べている間に私の注文したまるまるとした秋刀魚も手羽先の隣でいい色になっていた。秋刀魚も焼き鳥もビールもおいしくいただいた。活気のある店で食べるものは、なんでも新鮮なような気がして嬉しかった。

・みかん、安っ。
 翌日は柳川へ向かった。駅を下りると、現地で採れた野菜や果物を売っていた。「私が作ったんよ。」と言っているおばさんの前には袋に入った美味しそうなみかん。一袋50円。。。そんな値段でいいのかしら、と思いつつ一袋購入。

・鰻
 柳川下りの船に乗り込み、柳川をゆっくり下ること70分。終点近くなるとうなぎの蒲焼の香りが漂っていた。ガイドブックなど持ち合わせていなかった私は適当にその辺の店に入ることにした。私が適当に店に入る場合、見るものは人。そこそこ人が入っていて、メニュー、値段の分かる店に入る。フラフラ歩いていると、なんだか人が多く入っている店がある。並ぶのは面倒だったが、その店だけやたらと繁盛している。その店に決め、入ることにした。入り口で待つこと15分。ようやくお呼びがかかり、席へ。もちろん注文は鰻のせいろ蒸し。さて。注文してから出てくるまでも、20分くらいはかかっただろうか。大阪人ならもう、とっくに店を出て、他の店に行ってしまっているはずだ。
 こんなにもお腹を空かせた状態で待ってるんだから、もう、 何が出てきてもおいしいに決まってる、とイライラしながら蓋を開けると、鰻の上に錦糸玉子が乗ったうな重。あれ、せいろ蒸しってこんなん?ご飯も普通だし。と鰻を一口食べてみて驚いた。周りは香ばしく焼かれていて、パリッとし、なかは脂がのってトロッとしてる。いつも食べている鰻のように泥臭くない。向かいの人が注文したうな丼が到着した。蓋を開けると、なんと、鰻のたれに錦糸玉子がのっている。あら?鰻はどこ?と思いきや、なんと、ご飯の中に埋もれていた。なるほど、これなら鰻も冷めにくいし、食べやすい。待ったかいがあり、鰻を美味しくいただいた。「元祖」と自ら銘うっている「若松屋」さんという老舗の鰻屋さんだった。せいろ蒸しは1800円くらい。

 帰りの電車で、おばさんの作ったみかんをいただきながら、今時、こんなに価値のある50円ってあるだろうか、と美味しさとともに福岡の旅を振り返った。