2004年3月21日
* 世界の食卓から(第6回):アラカブの味噌汁

 今回は、御投稿いただきました、日本の「食の散歩道」をお届けいたします。さあ。おいしい散歩に出かけましょう。

・いざ、天草へ!
 九州の天草といえば徳川時代に厳しいキリシタンの弾圧の末に起こった天草四郎の島原の乱を思い浮かべる人が多いでしょう。その島原の乱も今は歴史の中に溶け込み、静かな海に点在する島々を5つの橋で結んだ天草五橋は今は観光名所の一つになっています。
 その橋のたもとに一軒のドライブインがあります。(但し、私が九州にいた頃なので十年も以上の前のことですが、きっと今もあると思います)
何の変哲もない田舎のドライブインで広い空き地のような駐車場の片隅に結構大きな平屋の建物が一軒あります。
 仕事の出張で3回程通って寄った事があります。又、一度はわざわざ出かけて行ったこともあります。
それは非常に美味しい「アラカブの味噌汁」を食わせるからです。

・アラカブ・ガシラ・カサゴは、同じ魚
 アラカブといいますと九州の呼び名で関西ではガシラというようです。
がんこそうな顔をしてよく締まった体のこの魚は煮付けにしても結構旨い魚ですが味噌汁にしても大変旨いですよ。

・オーダー!
 さて、注文して暫くすると出てきました。赤い大きな上が広がったお椀に赤い色をした白身の魚が一匹まるまる入っていて、少し甘い味噌と魚の出汁が調和してとにかく旨いとしかいいようがありません。しいて言うなれば、自己主張のない、何か安らぎのある旨さとでも表現しましょうか。

・ご当地味噌とのハーモニー

一般的に九州の味噌は関西に比べ甘いようで、この甘い味噌がアラカブとうまく合うようで、関西の味噌で同じように作ってみてもこんなに旨くはありません。もっともそこのドライブインの独特のものがあって素人にはまねの出来ない何かがあるのだとは思いますが。

・「味」とは五感で感じるもの

 そのドライブインの窓に近いテーブルに席をとり海と橋を眺めながら食する「アラカブの味噌汁」にはささやかな幸せを感じます。旨いものを食う時は、余程の心配事がない限り人間は幸せを感じるのでしょう。
また、都会のように高い魚ではないようでお勘定が安く、それが幸せ感を増幅します。
 食べ終わったお椀にはきれいな骨が一本残るだけです。

・天草に 行った際には お試しを

 そんな訳で私は「目黒のさんま」ではありませんが「アラカブの味噌汁」は天草と思っています。今でも時々思い出して「アー食いたい」と思うイヤシンボです。